煎茶道 文化

とにかく真似るが、パクリはしなかった日本文化

煎茶道を学んでいると、普通に生活しているとなかなか触れる機会のない面白いものに出くわします。

そのひとつが、日本文化のスタンスです。

煎茶は今から約300年前、中国臨済宗の隠元禅師によって日本に伝えられました。

中国にも「緑茶」と呼ばれる緑色のお茶はありますが、日本のものとは製法が異なり、もちろん風味も全く別物です。

煎茶道は、基本的に畳の上に正座してお手前が行われますが、中国には正座してお茶をいただく習慣はないそうです。

昔の日本人は、言ってみればただの飲み物であるお茶に独特のアレンジを加え、オリジナルでは成し得なかった精神世界へアクセスできる芸術にまで昇華させてしまいました。

これはとんでもないことです。お茶を煎れるという日常的な動作を通じて、哲学・心理学・倫理学を一色単にしたような文化をつくってしまったのですから。そんな文化を持ち合わせている集団は世界中見渡しても存在しません。

まずは取り込む

お茶だけではなく、日本にはありとあらゆるものが大陸(主に中国)から伝えられてきました。

日本は長い歴史の中で、常に先行する諸外国から優れている点を素直に学び、そして日本風にアレンジしてきました。

遣隋使や遣唐使がいい例です。彼らは、頼りない船に乗り込み、大陸の先進的な文化を学ぶために極めて危険な命懸けの航海に繰り出しました。

そうして命懸けで学んだ知識や文化を持ち帰り、まずは教わったとおりに普及させていきました。

当時、大陸文化を真似したものはたくさんありますが、長安をモデルに作られた平安京がその際たるものかと思います。

しかし、まずは大陸文化を取り入れるだけ取り入れた後、日本は独自路線を見出し始めます。

国風の方が良くない?

なんでもそうだと思いますが、「その土地の良さ」というのはそれぞれに違います。

大陸の文化をそのまま真似したのでは、おそらく日本の風土に合わなかったのでしょう。

そうして食べ物や文字、宗教など中国から取り入れたものは保存して活用しながらも、より日本に合うように工夫していきました。

異常なほどの工夫を重ねられた結果、自然との調和を体現しているかのような建築、能楽や和歌などの芸術が生まれました。

後に千利休が考案した侘茶は、能楽という舞台芸術を確立した世阿弥、そして連歌師の心敬が唱えた「冷・凍・寂・枯」という考えをもとにして考案されたといわれています。

現代に目を向けると、令和の時代を私たちは漢字・平仮名・カタカナ・アルファベットの4種類の文字が混在した文章を当たり前のように使っています。

漢字は訓読みと音読みがありますので厳密に言えば6種類の文字とも言えるのかもしれません。

現代人なら、アメリカが学ぶ対象となれば、一生懸命英語を勉強したり、アメリカの生活様式を盲目的に取り入れそうなところですが、昔の日本人は、「真似はするんだけど根本からパクリはしない」という姿勢で異文化と交わっていったのでしょう。

今の人にこれ、できますかね?

日本のことを知らないと

現代日本人はあまりにも日本文化に興味関心がないように思います。

他の追随を許さないほどの厳しさのなかに美しさを求め続けるという変態的にユニークな文化は、知るば知るほど面白みが滲み出てくるのにです。これを非常にもったいないと言わずしてなんと表現できましょう?

しかし、恥ずかしながら私も、煎茶道を学ぶまでは日本のことをさっぱり理解せずに生活してきました。

今思えば、なんて勿体無い時間を過ごしてきたのだろうかと猛烈に後悔しています。

昨今「日本はもうダメだ」などと叫ばれて久しいですが、確かにヨーロッパやアメリカの真似をしてもうまくはいかないでしょう。

特にアメリカの真似は難しいと思います。なんせ国の年齢が老人と中学生ほどに違いますから。80際の老人が中学生のように生活しろ言われてもそれは土台無理な話です。

私たちが豊かに生きていくヒントは、現代人が意識すらできないほど自然な形にまで昇華された日本の文化の中にあるように思えます。

茶道はちょうどいい

残念ながら現代人の感覚では、すでに昔の日本人の考え方を理解することは難しくなっています。なぜなら日常的に使う身体感覚が年々鈍くなっているからです。

今は暑ければ冷房を、寒ければ暖房をボタンひとつで使えるのが当たり前ですが、以前は冷暖房はもちろん無く、衣服も年間通じて生地以外は基本的に同じ形の着物を着ていました。冷蔵庫なんてありませんから季節の移ろい、旬の食材に対する感覚も今よりもずっと鋭かったはずです。

考え方によっては、昔の日本人は生物として現代人よりも優れていたのかもしれません。

だからこそ日本の方に茶道をおすすめしたいのです。

茶道では人間の五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)のすべてをフルに使います。しかも自分一人で完結するものではなく、お客さんやお手前さんなどの他者が必ずいる中で、転ばないための手すりのように導いてくれる作法に沿ってお茶体験をします。

茶道体験を繰り返していくと普段の生活からは見えない景色が少しずつ見えてきます。まるで曇りに曇っていたメガネのレンズがきれいになっていくようにです。

どのように変化していくかは個人差があるので一概には言えないと思いますが、誰もが季節に敏感になるはずです。

「ああ、もう年末か...」なんて時間の流れの速さに翻弄されている方は多いですが、あのような感覚は少なくともなくなるということです。

繊細に分類された日本の季節の移ろいを体感できるようになって損はないはずです。

茶道やりましょう

もしまだ茶道をやっていないのでしたら、茶道を始めましょう。

煎茶でも抹茶でもどっちでもいいです。とにかく始めましょう。

そうすれば、現代社会がいかに歪んでいるかが見えてくるはずです。そこが豊かな人生の入り口です。

最後まで読んでくださいましてありがとうございました。

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