文化

物を捨てずに、直して使う【金継ぎ】

最近、ご自分の持ち物を修理して使ったのはいつですか?


今の世の中、古いものを直すよりも新しいものを買ってしまった方が安上がりなことが多いため、住宅や自動車などの高価な物でもない限り「物を修理する」ということが極端に減ってしまったと思います。
そこで今回は、割れてしまった器を再生させる日本の伝統的な技術「金継ぎ」を紹介します。

金継ぎとは?


金継ぎとは、漆を使って器を修理する日本の伝統的な技術です。その歴史は古く、漆で修理する手法は今から約1万年前の縄文時代には既に行われていたといいます。漆は瞬間接着剤よりも強度が高く、修理する以前よりも頑丈になるといわれております。
今日見られるような割れている箇所に金粉を施して、壊れている箇所を隠すのではなく、あえて目立たせるような金継ぎが普及し出したのは、日本が室町時代の15世紀に入ってからです。
織田信長や豊臣秀吉など時の権力者の心を掴んだ茶の湯の文化が高まりを極めた時代に、金継ぎは大衆にも知られるようになったのです。
現代的にいえばカリスマプロデューサーであった千利休が、素人が施した決して綺麗な仕上がりとはいえない金継ぎされた茶碗を絶賛したとの記録も残っております。しかし、時代が進むにつれて金継ぎは時代の表舞台から徐々に姿を消していき、伝統工芸として今日は存在しております。

僕は日本茶が大好きで、3年前から煎茶道を習い始めたのですが、今まで自分の急須が割れてしまった、もしくは欠けてしまったことが2回ほどあります。
割れてしまったものの、やっと馴染んできた急須を捨てずにまた使いたい、どうにかして修理することはできないものか?そうして方法を探していた際に、金継ぎの存在を知りました。

今の時代にドンピシャじゃないか

近年は、人権や地球環境に関して、SDGs (持続可能な開発目標) の17のゴールが定められ、いかなる事業も環境に配慮した取り組みでなければならないという認識が世界順で一般化しつつあります。
しかし、これについて僕は疑問を抱かずにはいられないでいます。というのも、自然環境を全く破壊しない開発など存在しないからです。人間は自動車を作るにも、建物を建てるにも、食事をするにも何をするにも自然の物を使わなければなりません。何一つとしてこの地球上で人間が一から作り出したものなど無いからです。
環境に配慮したターワーマンションなどの広告を目にして、「そんなはずないでしょう」と思ったことのある方は少なくないはずです。


産業革命以降に科学が高度に発展したことで、それ以前は考えることもできないような利益を我々は享受できるようになった反面、人間はいつしか地球上の全てのモノを支配できると思うようになってしまいました。
その流れから今日に続く大量生産・大量消費の世界が形成され、地球環境の悪化の警鐘は年々大きく鳴り響くようになりました。地球温暖化は地球の地軸の変化や公転の影響もありますが、地球全体を覆い尽くしたマイクロプラスチックの問題は、100%人間に責任があります。
今後、プラスチックが地球環境とその中に暮らす人間の身体にどのような影響を及ぼすのかが明らかになってくるでしょう。
SDGsで掲げるゴールも、結局は地球への負荷をほどほどにして今の生活を維持していこうという内容です。それでは根本的な解決にはならないのではないでしょうか?

今すぐ取り組むべき課題は何か?それは人間の欲望にブレーキをかけることです

何も買い物するなということではありません。衣食住に関わるものは生活に欠かせません。しかし、それにも程度はあります。現在、日本を含む多くの国が使用している資本主義では自由競争が推奨されています。だからこそ身分など関係なく誰でも意志さえあれば自由に経済活動が営めます。そこには競争が生まれ、より自分の商品を顧客に買ってもらおうとあらゆるものが商品化され、それが顧客の満足を満たすものであれば購入され、さらに良いものを...というふうに無数の商品が売買されていきます。

でも、我々はちょっと立ち止まって自らの行動を考える必要があります。おそらく、どこのご家庭にも購入したはいいが、全く使っていない物が一つや二つはあるはずです。それらをなぜ買ってしまったのでしょうか?色々状況は違えど、要はうまいこと買わされたということです。
このモノの買い方を改めるべきだと思うのです。何も地球環境を守るためなんて大それた目的ではなく、自分の財布を守るためでいいと思います。

これは壊れても修理して使いたいものか?

何かを買う前にこの質問を自分にすれば、それでも尚欲しいというものは実際少ないことに気付かされます。それこそが現代を生きる僕ら一人一人が今日から取り組むべきことです。
金継ぎは、まさにこの行動に則した技術です。割れて不要になった器に天然素材である漆で修理し、さらに直したことで付加価値をつける。壊れた物を直して使うことを人類は当たり前にやってきました。金継ぎは使い捨てのサイクルを断ち切る技術です。

やったことないけどやってみよう

金継ぎの魅力に気がついてしまった僕ですが、実はまだ金継ぎをこの手で行ったことはありません。しかしながら、これををなんとか生業にしていこうと思います。
人類の長い歴史をみれば、今日のような使い捨てが当たり前の世の中は異常です。今起きてることはこれからもずっと続くと僕らは思ってしまいがちですが、今のような生活はそう長くは続けれらないでしょう。
僕は死ぬまで今のような環境で暮らしていたいですし、僕らの子供の世代、孫の世代、ひ孫の世代も同じように暮らしてほしいと思っています。今、なんの行動も起こさなくても、何の環境の変化も起こらないかもしれません。それならラッキーですが、ノーダメージでいれる確率は低いようです。
だからこそ僕は、金継ぎを通して行動を起こしていこうと思います。

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